経産省が求める“経験者”ってどんな人?【経産省・長山氏×VOLVE吉井】

経産省が求める“経験者”ってどんな人?【経産省・長山氏×VOLVE吉井】

経済産業省はいま、民間企業で経験を積んだ人材などを対象にした「経験者採用」に力を入れています。
毎年通年での採用を実施し、これまでに150名以上が経験者採用で経産省に入省、2023年度は一般職16人、総合職7人の合計23人を採用しています。
経産省が求める人材とは、どんな経験・スキルのある人材なのでしょうか?
経産省で中途採用を担当する長山美由貴・課長補佐に、VOLVE代表取締役の吉井がインタビューしました。

・長山 美由貴(ながやま・みゆき)
経済産業省大臣官房秘書課(採用人材育成)※2025年4月時点
石川県生まれ。2010年東京大学農学部卒業。19年米国UCLA公共政策大学院より公共政策修士(MPP)を取得。
2011年経済産業省入省、情報通信機器課、貿易振興課、内閣府(出向)、秘書課、エネルギー環境イノベーション戦略室を経て現職。

・吉井 弘和(よしい・ひろかず)
VOLVE株式会社代表取締役、慶應義塾大学総合政策学部准教授
1981年、東京都生まれ。2004年東京大学理学部数学科卒業。11年米国コロンビア大学及び英国ロンドン大学政治経済学院より公共経営学修士(MPA)を取得。
2004年マッキンゼー・アンド・カンパニー日本支社入社、同ドイツ支社転勤、英国保守党本部インターン、同社アソシエイト・パートナー、社会保険診療報酬支払基金理事長特任補佐、厚生労働省保険局保険課課長補佐を経て現職。

民間に近い「選考プロセス」

吉井 経産省の経験者採用について、どのように選考しているのか教えてください

長山 1次選考では職務経歴書・調査票・ご自身の政策についての提案を記載いただく小論文を出していただき、「書類選考」を行っています。
2次選考ではWeb適性検査と面接を受けてもらいます。1次面接と2次面接の一部はオンライン、その後最終面接にかけては対面で実施しています。
経産省の採用というと、新卒の国家公務員試験が大半でしたので「難しい筆記試験を受けないと入れない」という誤解もあるかと思います。経験者採用では民間企業の転職に近い選考プロセスをとって、これまでのご経験から培った能力をどう生かすか、政策へのお考え、お人柄についてしっかりお伝えいただき経産省とマッチするかを重視したいと考えています。

吉井 新卒の採用のように、準備に時間のかかる筆記試験がないことはあまり知られていないかもしれませんね。ただ2次選考ではWebテストもあるんですね。

長山 Webテストについては、自宅で適性検査を受験していただきますが、参考情報という位置づけで、Webテストだけで合否判断はしません。入省後の配属先でその人の強みがどう生きるかを見るという側面が強いです。

吉井 面接試験で面接官を担当されるのは、現場で働いている職員の方でしょうか?

長山 面接を担当するのは、基本的に人事関係の担当職員です。
加えて、入省後の現場で働くイメージや実際に業務として向き合うことについて理解を深めていただくため、面接プロセスの間には「オンライン職場訪問」の時間を設けています。あらかじめ受験者の関心をお伺いして、その分野に関わっている職員を含む2人ほどとお話してもらい、職場理解を深めてもらっています。

経産省が求める「4つの力」

吉井 経産省が経験者採用で求めているのは、どんな人材なのでしょうか?

長山 大きく、次の「4つの力」がある人材だと思っています。
まず1つ目は、世界と日本の産業課題や社会課題を自分ごととして捉え、「何とかしたい」という思いがある人です。社会課題に対して、「こうあるべきだ」、会社において「こういう環境を変えたい」と強く念じたことがある方ご経験がある方は大歓迎です。

2つ目は、本質的な課題を見抜き、解決策を提示できる人です。民間企業などで働いた経験がある方ならば、課題に対してそれを構造化し、自社や組織の力を活用してどう自分がアプローチできるかを考える経験はすでにおありかと思います。これまで培ってきたビジネスの視点やマクロで経済や業界を捉えるような経験が生きてくると思います。

そして3つ目は、協働したり交渉したりしながら、実現する力、調整力やコミュニケーション能力のある人です。
行政の場合、政策案を立案したのちに、多様なステークホルダーと調整しながらゴールを目指すプロセスが求められます。民間企業で例えば営業や社内調整などで培われるようなステークホルダーに対して提案し交渉し、落としどころを見つけていく力は、行政でも生かせると思います。

最後の4つ目ですが、難しい局面でも折れることなく頑張りきれる人です。これは困難な状況に直面しても粘り強く努力し、目標達成に向けて最後までやり抜く力のことです。例えば、多くの関係者をまとめプロジェクトを達成した経験はもちろん、学生時代の部活やイベントの企画、他にも災害対応のボランティアなど、心が折れそうになってもやり抜いた経験なども役立つと思います。

吉井 確かに行政では調整力も必要ですよね。2つ目の「本質的な課題を捉える」という力について、もう少し具体的に解説してもらえますか?

長山 説明するのがちょっと難しいんですけど、1つのプレイヤーという立場では「これが問題だからそこにアプローチしてその課題を解決すればいい」という発想になりがちです。しかし公的な役割を考えると、社会全体の課題解決という意識を持つ必要があります。実際には、その課題の背景にあるようなシステムの不全について解決しないといけない場合もあるかもしれません。
行政で働くということは、「企業や個人を超えたアプローチ」であり、課題の背景にあるシステムや制度をどのように変えていくべきか、その際に他のステークホルダーはどういうかを考えられるかどうかが問われると思います。
役所に入ると、補助金や予算、税など、社会へのアプローチの方法を学ぶのですが、そうした専門知識の問題だけではなく、公的なアプローチとして何が必要なのか、自分の頭で考えられる力、そして様々な立場の人の意見を想像する力が必要だと思います。
「具体と抽象を行き来する力」ともいえるでしょうか、個別具体的なソリューションを考えるだけではなく、広く社会全体にも展開する上で、抽象化したレベルで問題解決を考えられるといいと思います。

吉井 具体と抽象を行き来する力……いい言葉ですね!実際に経験者で入省される方は、どのような経験を積まれた方が多いのでしょうか?

長山 成長意欲が高く、タフなアサインメントをこなしてきている方が多いと感じます。
ただ勘違いしてほしくないのですが、これまでの社会人生活で「何年もずっとタフな仕事をし続けてきた」という経験が必須なわけではありません。
たとえ短い期間であっても、与えられたミッションに対して、しっかり自分の頭で考えてやりきる、真摯に向き合うという経験を持っている方であれば、入省後もしっかり職務を担うことができると思います。
経験者採用で入省された方の経歴は様々です。大企業で経営企画を経験し、株主や経営の判断が色々変わる中で調整を担われてきた方もいますし、技術分野で研究されてきた方もいます。

吉井 研究職の方もいらっしゃるんですね。研究職の場合、政策に関わる仕事とは距離もある気がしますが…。

長山 その目の前の研究だけをみてきたという方は、難しいかもしれません。
ただ技術開発の研究であっても、ゴールに向けて関係者の気持ちが折れそうになったところをしっかりと高めて、アウトプットを出してきた方もいると思いますし、プロジェクトマネジメントやチームを率いて研究開発を進める上で、高い調整力を持っている方もいると思っています。

小論文は「クリエイティブ」のほうがいい?

吉井 話はちょっと変わってしまうのですが、小論文についてうかがいます。応募に提出する小論文は、2000文字以内で「入省後に解決したい問題・本質的な課題とその解決に向けて考え得る政策について」書くとありますが、どんな内容の小論文だと評価されるのでしょうか?

長山 例えばですが、規模の大きな政策について書いているからいいとか、逆に悪いなどはありません。
経産省の政策に関する内容で、自身の経験に近いような技術分野や政策などで構いません。
ただし、政策の内容が「1つの企業がやればいいよね」とか「細かい事業レベルの話だよね」というもの、また政治的な方向性のみに閉じていて具体の方策がないものや、行政ではアプローチできない課題についての記載だと、それを経産省でやりたいと言われても、政策として外れてしまっていると思います。
行政組織として支援すべきものや規制すべきものがあるので、その役割も踏まえ、提案していることが大事だと思います。

吉井 小論文では、照準を当てる場所があっていることが大事なのですね!小論文で書く政策の中身としては、クリエイティブな内容がいいのか、また現実的な内容がいいのか迷う人も多いと思います。どちらがいいのでしょうか?

長山 どちらでも大丈夫です(笑)。それよりもまず、論理が破綻せずにちゃんと説明しきっているところが大事かなと思います。
例えばエネルギー政策で「すぐに核融合発電を導入する。」と書かれても、現実的には今すぐにはできない政策なのでそれは成り立ちません。その意味では現実的なエネルギーミックスの提案など、きちんと担保された政策提言が求められますし、同時にもっと新しいアイデアを盛り込んだ内容を書いていただいても、論理がある程度一貫して主張してもらえれば問題ありません。

「経験者採用」でも出世できるのか?

吉井 経産省では20年以上前から経験者採用を始めていたと伺いましたが、長山さん自身、これまで経験者採用の方と一緒に働いた経験はありますか。

長山 10年ほど前、私がまだ入省して数年だった頃、スタートアップを経営されていて経験者として入省された方と働いたことがあります。
海外からの企業誘致策について、指導を受けながら、どんな政策を打つべきかを考えたのですが、私の意見を吸い上げながら「構造的に考えてみるとこうなるね。」とうまく議論をファシリテートしてくれたのが印象的でした。また民間的な経営判断や、トライアンドエラーを繰り返すスタートアップ的な考え方を学ぶことができました。

吉井 かなり前から経験者採用の方が活躍されていたんですね。
逆に実際に経験者採用で入省した方からは、入省前には意識していなかった経産省の良さについてどんな声がありますか?実際に入省した方々が「入省前にはあまり意識していなかった」ということは、もっとアピールした方が良いということでもあると思います。

長山 よく聞くのは「第一線で活躍する人と政策議論をできて思った以上に刺激がある」という声ですね。あとは「省内の仲間が優秀で日々充実している」という感想も聞きます。
また「入省1年目から政策の意思決定の近いところにいられて責任感がある」という声もありました。

吉井 私自身も外にいた時のイメージと、厚労省の中に入って違うと感じたのは、「階級を超えて局長クラスでもフラットに議論してくれるな」という、ポジティブなギャップでした。
一方、経験者採用で気になるのは、一定以上は出世できない「ガラスの天井」があるんじゃないかという懸念です。長山さんからみると、優秀な経験者採用の方がキャリア上のライバルになることはないのでしょうか?

長山 経産省は政策分野が広いということもあって「自分がこの政策をやりたい」という方が多い気がします。
出世したいというよりも、政策に関わりたいというモチベーションを持つ人が多いので、キャリアのライバルみたいな感じでは見えていないと感じます。
とは言え能力本位で評価されるところもあり、新卒か経験者かを問わず、能力のある人が重要な役職やポストになる人事となっています。
逆に言えば、経験者採用だからポストに就きにくいみたいなことは、人事制度としてはあまりないと感じます。

民間でも活躍する若手に知ってもらいたい

吉井 2023年度の経験者採用では、一般職と総合職をあわせた応募件数が約800件でした。応募件数についてどのように感じていますか?

長山 かなり反響があり、非常に多く応募をいただいていると思っています。
一方で最終的な採用は20名程度です。我々の課題としては、必ずしも訴求したい層に十分に届いているかというと、ちょっと足りていない部分もあるのではないかと思っています。
例えば総合職の場合、育成も含めて将来的に組織の中核になっていただく「幹部候補」となってほしいと考えています。30代のうちに多様な経験を積んでキャッチアップしてほしいという意味では、年齢は30代前半ぐらいまでの方が来ていただけるとマッチしやすいかもしれません。
もちろん年齢を重ねているから採用しないということはありませんが、応募者の平均年齢は、想定よりも高いなという印象があります。

吉井 なぜ届いてほしい層に訴求できていないのでしょうか?

長山 1つの理由としては、最初にも説明したように、難しい筆記試験を受けないといけないという誤解があるからだと思います。
もう1つは、日本の労働人口全体でみても、ターゲットになるような20代は減ってきていて、かつ企業も人手不足が課題となっている中、彼ら・彼女らは現在の職場で活躍している方が多い。我々としても現職で活躍しているような人材を狙っているのですが、なかなかリーチしきれていない、という面もあります。
これまで経産省のホームページなどでPRしていましたが、検索して見つけてくれるのは限定的でした。今後はさらに経験者採用のPRにも力を入れていきたいと思っています。

吉井 若い世代はキャリアの専門性志向が高まっているとも感じます。「総合職」という雇用の形に不安を感じる面もあるのではないでしょうか?

長山 行政官として、必要な知識経験だったり、多くの経験だったりを積まないといけない部分もあり、その意味では、幹部として活躍するためには、数年または10年以上の経験が求められます。
また経産省だけでも、本当にいろんな政策分野がある中で、私もまだまだ知らないことだらけです。インパクトの大きな政策という観点では、どうしても短期間ではできない部分があると思っています。

吉井 最後に、経産省の中途採用に興味を持った人へメッセージなどあればお願いします。

長山 経産省では20年前から経験者採用を開始し、多くの経験者の方が活躍されています。
また経産省では魅力的な職場作りを進めており、新しい取組にも挑戦しています。
最近では、30歳前後の若手の職員による政策立案プロジェクトに組織として力をいれています。若手職員が興味のあるプロジェクトチームに自ら手を上げて参加し、チームとして議論を重ねていますが、経験者採用の方の活躍も目立ちました。皆さん、モチベーション高く参加してくれています。
国家公務員への転職と聞くと「政策についての知識がない……」と感じる方もいると思います。政策の知識は採用の前提ではありません。少しでも興味があれば、躊躇せずに挑戦してみてほしいです。


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