「BCGを”霞ヶ関”のパートナーにする」。総務省出身の経営コンサルタントは越境後の今もパブリックのために働き続ける

(官⇆民の越境キャリアを支援するVOLVEのnoteです)

新卒で総務省に入省し、現在は戦略系コンサルティング大手のボストンコンサルティンググループで、パブリックセクターグループのパートナーを務める森原誠さんに話を聞いた。好きだった公務員を辞めての転職は、当時のBCGのパートナーによる「コンサルで修行することで、パブリックへの関わり方について、キャリアのオプションが増える」という言葉が決め手になったという。パブリックセクターとコンサルティングの掛け算で自らのキャリアを切り拓く森原さんの過去・現在・未来を通じて、越境キャリアの実像に迫った。

<プロフィール>
森原 誠さん
ボストンコンサルティンググループ(以下、BCG) Managing Director & Partner。1979年鳥取県生まれ。2003年に東京大学法学部卒業後、総務省に入省。総務省では放送法の改正、国際標準戦略の策定等、主にテレコム系分野の行政を経験し、2011年に退職。同年BCGに入社し、主に通信・ハイテク系顧客のコンサルティング案件を担当。17年に一度BCGを退職して、政策シンクタンク青山社中のCOOに就任。19年にBCGに再入社後は公共セクター及び気候変動・サステナビリティグループのメンバーとして活動。群馬県の政策アドバイザーも務める。


100人に1人の人材になるには?

―どのようなきっかけで、総務省から民間に転職したのでしょうか。
元々は、ずっと役所で仕事をしようと思っていました。総務省や役所が嫌になったとか何か、強いモチベーションがあって転職活動を始めたわけではありませんでした。ただ、ロースクール留学時代に周囲の友人が転職活動をしているのを見て、自分の今の市場価値を測る力試しのような感覚で、日本に帰国してから面接を受けました。ですから、失礼な話ですが、BCGから内定をもらった際に、一度はお断りをしたんです。

―最終的にはオファーを受けた。どのような考え方の変化があったのでしょうか。
当時は、総務省の課長補佐になりたての頃でした。新卒からずっと役人をやってきて、良くも悪くも、霞ヶ関での仕事に慣れてきて、仕事のまわし方やボタンの押し方が分かっていました。一方で、そうしたテクニックに寄りかかって仕事をしてしまっていて、物事の本質を考えつくすことができていないのではないか、という自分自身への疑問がありました。そう考えたとき、役所でいうサブ(※)を徹底的に考え抜く、コンサルティングという仕事は魅力的に感じました。
(※ サブスタンスの略。事業の内容そのものを考えることを指し、行政では政策の中身のことを意味する。)

多くの役所で、総合職の国家公務員は、課長補佐という役職を10年ほど続けます。その経験により、たしかに、政策を前に進める上で有益なスキルセットを身につけられることになります。何が良いかは人それぞれですが、私は1つのスキルセットを極めるリニアな道ではなく、複数のスキルセットを掛け合わせる道に魅力を感じました。仮に、「10人に1人のスキル」をなにか持っていたとして、それに加えて、もう一つ別の「10人に1人のスキル」を獲得できると、100人に1人の人材になることができます。ひとつのスキルを磨き続けて、100人に1人の人材になることもできますが、私には、前者の掛け算式のスキルアップがあっていると思いました。

総務省時代、留学先にて
総務省時代、留学先にて

―とはいえ、総務省の仕事も楽しいと思っていた中で、転職には迷いもあったと思いますが、何が決め手になったのでしょうか。
オファーを断った後も、熱心に誘ってくれていたBCGのパートナーの言葉が決め手になりました。「役所で仕事を続けたいということは素晴らしい。ただ、コンサルに転職するということは、可能性を拡げられるということ。ずっとコンサルを続けなければならない、ということではない。コンサルで修行することで、パブリックへの関わり方についても、キャリアのオプションが増えるのではないか」と言われたのです。
自分は役人にこだわっているのではなく、パブリックセクターの仕事をし続けたいのだということに気づきました。転職したからといって、パブリックセクターの仕事を捨てることにはならず、違う角度から関われるオプションを増やす機会になると思いました。

今になって思えば、当時BCGにいらっしゃった太田直樹さんの例もあります。VOLVEさんのホームページにも太田さんのサポートメッセージがありますが、彼は、BCGでシニアパートナーを務めた後に総務大臣補佐官となり、その後も、政府の重要な委員会などの委員をされています。改めて、パブリックセクターへの関わり方には様々なオプションがあると感じます。

役所スキルの偏りを自覚し、マインドセットからアンラーンする

―役所とコンサルは仕事の仕方がかなり異なります。森原さんでも、戸惑ったり、つまづいたりすることはあったのでしょうか。
もちろん、たくさんありました(笑)。私は4月入社だったので、新卒の同期と一緒に研修を受けましたが、リサーチをするのもスライドを作成するのも何でも、新卒の方が圧倒的に速くて上手でした。そういうものだと割り切って、めげないようにしました。加えて、自分が役所でそれなりに仕事ができたということは忘れて、おごらず、とにかくアンラーンを意識しました。

―コンサルに転職すると「アンラーンしろ」と言われるという話はよく聞きます。どういうことなのでしょうか。
1つは単純なことで、まさに、過去の成功体験を忘れて、新しい職場のやり方を素直に受入れ、分からないことがあれば謙虚に尋ねるということです。もう1つは、前職で培った能力が、ある意味で偏っているということを自己認識して、マインドのレベルから変えようと踏み切ることです。自らの偏りに無自覚だと、なかなかその偏りから抜けきれないことがあります。例えば公務員出身だと、自分の外にだけ答えを探そうとして、うまく適応できていない人もいます。

―どういうことでしょうか。
例えば、コンサルではよく「スタンスをとれ」と言われます。ビジネスの世界では、戦略的な問いに対して、完璧なエビデンスが存在することはほぼありません。その中でも、戦略的な問いの賞味期限が切れる前に、入手可能なファクトを積み上げて、右に行くべきか、左に行くべきか、100%の確証はなくても、経営者の目線になって自分でスタンスをとって提案をする必要があります。
一方で、公務員は完璧主義の世界ですから、公務員出身者の中には「スタンスをとる」ということに、なかなか慣れない人が出てきます。その際、まじめな人ほど、データはないか、有識者の意見はないか、と、更にエビデンスを探しに行く。終いには、「スタンスを取るためのノウハウがどこかにまとまっていないか」と、本末転倒な考えに陥る人さえいます。自分の内に答えを探し、リスクを取って意見を述べることが、求められてもできなくなっているのです。

公務では国民をクライアントとして、一人の犠牲者も出してはいけません。他方でビジネスでは、時に失敗してでも、絶えず変化するビジネス環境に合わせて、リスクをとって挑戦する必要があります。このような、公務とビジネスの本質的な違いに基づいて、役所とコンサルティング会社の仕事の仕方の違いが生まれています。公務員出身者が変わるためには、異なる世界に適応している自分に、気づく必要があるのです。

キャズムを越えた先で、役所で学んだことが生きた

―なるほど。そういうことですね。私は森原さんとは逆の順番で、コンサルから役所に転じましたが、公務員として学んだことも多々あると感じています。森原さんは役所時代に得られたスキルが、コンサルにも役立ったと感じることはあったのでしょうか。
BCGに入社して1年ほどは苦しい時も多かったのですが、そのキャズム(※)を越えた先で、役所で学んだことが生きるようになってきたと感じます。BCGでは、早ければ中途採用の2年目くらいから、プロジェクトリーダーの下で、プロジェクト全体を補佐するような役割を任されるようになります。クライアントミーティングのメッセージを研ぎ澄まし、資料全体の構成やクライアントへの伝え方を考え、自分よりもジュニアなメンバーがいつまでに何をやるかを管理するような役割です。(※ 乗り越えるべき深い溝)

印象に残っている、役所時代の上司の言葉があります。
当時、内閣官房に出向して、総理への説明の準備をしていました。分刻みでスケジュールが詰まっている総理への説明は、「通勤電車のラッシュの中で紙を見せて、相手が5秒で理解できるくらいに、言いたいことと資料を研ぎ澄ませ」というものでした。国会議員の質問への回答を説明に行く機会も多いですが、その際にも、ポイントを押さえて話さないといけません。役所の資料は先ほどの完璧主義で、文字が多く、雑多な資料になりがちです。その雑多な資料でポイントを押さえて話す。国家公務員をしていたからこそ、メッセージを研ぎ澄ますという感覚が鍛えられたと思っています。

また、総合職の国家公務員は、30歳前後で課長補佐という役職に就きます。そうなると、どうすれば、うまく関係者のコンセンサスを得られるのかを常に考えるようになります。コンサルの仕事でも、戦略に対する提案の資料を作るだけではなく、その先でクライアントを動かすことが求められます。コンセンサスを得て物事を動かすという意味では、コンサルも霞ヶ関も、同じ営みをしているものと思います。役所で育成されると、物事を動かすために必要な非言語情報を汲み取って、それに基づいて行動する力が強くなります。

BCGを“霞ヶ関”のパートナーにする

―今、どのようにパブリックセクターに関わっているのでしょうか。
役所から受注するプロジェクトに、メインで携わっていますが、省庁の指示に従って調べるだけのリサーチ業務ではなく、民間企業に対して行っているのと同様に、調査に基づいて将来に向けたアクションを一緒に考える、というコンサルティングをするようにしています。

例えば、2019年に経産省から受注したプロジェクトで、スタートアップの振興策を検討しました。いかに、スタートアップに資金を流入させるかという観点から検討を行い、海外の大きなベンチャーキャピタルが、日本のスタートアップに出資をしてくれるような環境を作る必要があるという結論となりました。その上で、彼らに日本拠点を開かせたり、逆に、日本政府が彼らに出資したりという可能性を、経産省の方々と一緒に検討しました。そのような政策が今、政府によるスタートアップ支援として開花しようとしています。

―今後の展望をお聞かせください。
BCGは大きな可能性のある場だと思っています。今、自分がBCGで受注している仕事では、政策検討で役所と相補的な関係を築くことができています。先ほど、コンサルも役所も同じ営みをしていると言いましたが、それぞれで鍛えられやすいスキルには違いがあります。政策の企画立案という意味でも、そして、それを担う人材育成という意味でも、BCGを“霞ヶ関”のパートナーにする、そんな未来を目指していきたいと思っています。

【編:吉井弘和 写:大屋佳世子】


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