
話し手 小泉美果(フリー株式会社 スモールビジネス総合研究所所長 / 金融渉外部長 / プロダクトマネージャー、慶應義塾大学SFC 特別招聘講師) 吉井弘和(VOLVE株式会社 代表取締役)
(本記事は中編です。前編もぜひご覧ください。)
吉井:戦略を練る段階では、政策形成過程に対する知識や相場観が必要ですよね。
小泉:はい。特に、いろんなアプローチがある中で、どの政策形成手段を使うのかを見定める必要があります。サンドボックスで行くのか、規制改革で行くのか、税制改正で行くのか。それによって全体のスケジュールやプランニングが変わってきます。
小泉:見定めるときは、「どこで・誰が・どういうプロセスで」決まる話なのかを分解するんです。審議会なのか、与党なのか、規制改革の枠なのか。関係する省庁や利害関係者も違いますし、会合のタイミングも違うので、逆算して、いつまでに何を揃えて誰に当てるか、という全体像を設計していきます。
吉井:こうした検討を経て、スケジュールも含めた全体計画を作るわけですね。

吉井:実行段階では、霞が関や永田町へのアクセスが必要になりますよね。
小泉:ええ。ただ、全部自分たちでやらなきゃいけないわけではないんです。例えば専門家を頼ることもできます。アクセスについては、自分で持ち込まなきゃいけないわけじゃなくて、専門家にアクセスをお願いして、そこから先は自分たちでやる、ということもできますから。
吉井:アクセスができたら、重要なのは、キーパーソンと対話するスキルですよね。
小泉:はい。もう少し具体的に言うと、対話の前提として「信用」と「言語」が大事なんです。信用は、守れない約束をしない、根拠のある情報を出す、相手の制約や守秘にも配慮する、といった積み重ね。言語は、行政側が判断できる言葉で話すということで、法令や制度の建て付け、政策のロジックを踏まえて伝える力です。
吉井:そこはすごく大事ですよね。霞が関の役人が規制を変えない場合も、意地悪して規制したいわけでもないと思いますし、能力が低いから変えないわけでもないと思います。彼らもやりたいことがありながら、他方で様々なステークホルダーの思いも背負いながら、その間を縫って日々調整に苦悩している。
小泉:はい、その状況に理解を示すことができるかどうかが、信頼を得られるかどうかの鍵なんです。
吉井:こうした対話を通じて、政府渉外担当が持ち込むアジェンダを、そのキーパーソン自身の問題意識に転化していくのでしょうか。キーパーソンの問題意識に転化させるスタイルも、論理的説得や人間関係、損得勘定など、いろいろありそうですね。
吉井:最後の交渉段階では、キーパーソンから調整相手とみなされる積み重ねが大事だと思うんですが。
小泉:そうですね。それから、ビジネス要件の中で「絶対に落とせないもの」を理解して、「制度要件として泳げる範囲」を同定するスキルも重要です。その範囲の中で、キーパーソンと交渉していく。
小泉:そのときも、相手や局面によって、どの論点は詰めて、どの論点は泳がせるかを調整します。結果的に「この人なら落としどころを一緒に探せる」と調整相手として見てもらえるかどうかが大きいんです。

小泉:それから、SaaSや金融の業界は、変化がめちゃくちゃ早いんです。だから、政府の規制だけではなく、業界での自主規制のウェイトがすごく高くなるんですよ。
吉井:それは確かに、他の業界とは異なる特性がありそうですね。
小泉:そうなんです。法令に先駆けて自分たちの業界を律していかないと、業界全体が倒れちゃうということに繋がりやすい。だから、霞が関の仕組みや制度を理解している人材がビジネス側で自主規制を作っていく、というモデルができているんです。これは、制度を早くアップデートしていくという良い方向に向かっていると思います。
吉井:何か具体的な例はありますか?
小泉:例えば、証券口座の乗っ取りみたいなことが起きた時、もちろん金融庁も動くんですけど、それを横睨みしつつ、業界団体として自分たちで何ができるかを考える。ビジネスを知っているからこそ、即効性のある律し方ができる。これが、民間セクターにいる霞が関人材の強みなんです。
吉井:金融庁認定の自主規制団体というのもあるんですよね。
小泉:はい。認定団体というのは、金融庁から一定の委託を受けて、法の監督下に沿った規制を会員に敷いていく、いわば官庁の代わりに実行部隊を一部担っているということです。行政としても効率的ですから、スタートアップの巻き込みも重要な使命になります。
吉井:ここまでの業務内容を踏まえて、人材要件を整理したいと思います。
吉井:ただ、私が想像するに、これら全てを一人で完璧にこなす必要はない、ということですがどうでしょうか。
小泉:それは本当にそうですね。自分一人でやるのか、上司のサポートを得ながらやるのか、委託先のサポートを得ながらやるのか。行政から働きかけるのか、政治から働きかけるのか。前提によって、必要な人材要件やその実現のスタイルが変わってくると思います。
吉井:例えば、アクセスだって、自分で持ち込まなきゃいけないわけじゃない。専門家にアクセスをお願いして、そこから先は自分たちでやる、ということもできますよね。
小泉:その通りです。だから、まず大事なのは自己理解だと思うんです。自分の強みと弱みをちゃんと把握する。霞が関の中にしかいなかったらそれができないので、外部の専門家に相談しながら、自分の強み・弱みを理解して、弱いところは誰かに頼む、という戦略を立てることが最初のステップだと思います。
吉井:スキルマップに対して、まず自分の立ち位置を知るということですね。
小泉:はい。

吉井:キャリアパスについても話しましょう。一般的には、政府渉外として特定の事業・政策領域における専門性を極める、領域を広げる、マネージャーとして上に上がる、というのがありますよね。でも、事業部側にシフトするというのも、かなり現実的な選択肢だと思うんです。
小泉:はい。私自身がまさにそうです。
吉井:小泉さんの場合、どういうステップでプロダクトマネージャーになったんですか?
小泉:私の場合は、まず銀行と交渉するビジネス職をやって、その後新規事業を担当して、銀行と一緒にプロダクトを作るという経験をしました。その時はプレイングマネージャーとして。そこでビジネス理解を深めて、プロダクトはこうやって設計されるんだ、ということを学んでから、プロダクトマネージャーになりました。
吉井:その期間はどれくらいですか?
小泉:2年くらいですね。言ってみれば、霞が関の1つのローテーションくらいの期間です。
吉井:その間もずっと政府渉外は続けていたんですか?
小泉:はい、兼務していました。
吉井:プロダクトマネージャー以外だと、マーケティングやセールスにも行く人もいるのでしょうか?
小泉:ポテンシャルはあると思います。制度改正って公表されて予定されていても、それを解釈してプランニングしていくスキルが強い人は、必ずしもセールスやマーケティングの領域にはいないんです。だから、その領域が楽しいと思えれば、政府渉外(GR; Government Relations)の経験はダイレクトに活きると思います。
吉井:新規事業開発もそうですよね。
小泉:そうですね。それから、コーポレート部門も向いていると思います。
吉井:ああ、確かに。GRからその他のコーポレート部門に行く人もいるんですか?
小泉:あまり聞いたことはないですけど、でもすごく向いていますよね。GRを含めたコーポレート全体を所管する役員とか、そういったパターンは聞いたことがあります。
(後編はこちら)
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